博士 × 「技術起点の新規事業創出・未来創造」|大澤 理恵(アスタミューゼ株式会社)
2025.12.10
大澤 理恵 氏(アスタミューゼ株式会社 テクノロジー・インテリジェンス本部 本部長/データ・アルゴリズム開発本部 本部長)
技術起点の未来予測や新規事業創出を支えるアスタミューゼ株式会社では、多彩な専門分野を持つ博士人材が第一線で活躍している。今回お話を伺ったのは、テクノロジー・インテリジェンス本部、そしてデータ・アルゴリズム開発本部の本部長を務める大澤さん。複数案件を横断しながら高度な分析を行う現場のリアル、博士ならではの強み、そして「個々の特性を尊重する」アスタミューゼ流の働き方。研究と実務の両方を知るマネージャーの言葉から、博士人材が企業で輝くためのヒントが見えてきた。
インタビューアー:鬼頭 祐介(株式会社アカリク ヒューマンキャピタル事業本部 事業推進部)
鬼頭:まず現在のご所属と、あわせて博士課程で在籍していた研究科や専門分野を教えていただけますか?
大澤:テクノロジー・インテリジェンス本部と、データ・アルゴリズム開発本部という、2つの部門の本部長をしています。博士課程は、東京大学大学院 工学系研究科 システム創成学専攻でした。専門分野は技術区分で言うと、ヒューマンインタラクションといいます。
鬼頭:ありがとうございます。ではここから事業内容について。御社は幅広い事業をされていますよね。
大澤:そうなんですよ。ほんとにいろいろやっていて、一言で説明するのがすごく難しいってよく言われるんです(笑)。あえて一言で言うなら、「自社のデータベースとアルゴリズムを活用して、クライアントの課題解決を行う会社」という感じです。
「課題解決」と言っても多岐にわたります。ご支援させていただく内容としては、クライアントの多くは製造業の企業様ですが、そうした企業が保有する技術を起点に、「新しい事業をどう生み出すか」といったテーマから入ることがよくあります。
製造業の企業はもともと多くの技術資産を持っています。そのなかで、どの技術が強みなのか、競争力はどこにあるのかを評価する分析も重要です。さらにその結果を踏まえて、「今後どういった研究開発戦略を取るべきか」といった示唆までお伝えすることもあります。
それ以外にも、企業様が直接持っている技術ではなくても、社会で注目されている技術の最新動向を調べる、その技術が将来どう発展していくかを予測するといった分析も日常的に行っています。
鬼頭:おっしゃる通り幅広いですね。
大澤:今お話ししたのは主に事業会社様向けの内容ですが、弊社の顧客には事業会社以外にも官公庁や金融機関といった、また違ったニーズのお客様もいらっしゃいます。
例えば官公庁の場合は、特定の狭い技術分野を深掘りするというよりも、今後の政策に生かして日本を元気にしていくための示唆を求めていらっしゃるんです。
なので、幅広く最先端技術の動向を知りたいとか、日本の強み・弱みを把握したい、あるいは日本にいる優秀・有望な研究者を探したいといったご要望に対するご支援をよく行っています。
鬼頭:それは社会においても重要な取り組みですね。では、そういった事業の中で、いま本部長をしていらっしゃる部署の役割を教えていただけますか?
大澤:はい。基本的には、どのプロジェクトにもテクノロジー・インテリジェンス本部のメンバーが関わります。
分析の内容自体は案件によって異なるんですけれども、共通しているのは、弊社のデータベースを使ったデータドリブンな分析を行うという点です。
具体的には、テクノロジーアナリストが分析対象となる領域のデータをデータベースから取得し、そこから分析のベースを作ります。解析そのものは別のアルゴリズム部隊やシステムが行うこともありますが、その解析結果を読み解き、解釈し、考察して、クライアントに有益な示唆を導くのがアナリストの役割です。
鬼頭:いろいろな高度な知的産業を支える上で、ブレーンというか、重要な頭脳の役割を担っている印象を受けました。その部署のなかで、本部長として大澤さまご自身が現在担っていらっしゃる役割についてもお伺いできますか?
大澤:本部長ということで、マネジメント業務を行っているのはもちろんなのですが、プロジェクトマネジメントだけではなく、自らも顧客を担当し、お客様に対して課題を伺ったり、提案をしたりということも行っております。
アウトプットの例としては、クライアント企業様が興味・関心を持つ技術の未来推定を行うケースがあります。弊社はデータベースの中に、①特許、②論文、③競争的資金という情報を保有しています。技術分析の際には、この三つのデータを自社開発のアルゴリズムで解析します。すると、「どの領域のどんな技術に注目が集まっているのか」「研究活動がどこで活発化しているのか」がデータから分かるようになります。ただし、解析の結果をそのままお見せするだけでは、お客様にとっての価値にはなりません。
そこで、プラスアルファの解釈や示唆を付け加えるのが、テクノロジーアナリストの役目です。例えば、抽出されたキーワードが意味するところを踏まえて、
「この技術は今後こう発展していく可能性が高い」
といった予測を行います。また、その内容を年表のような形でまとめ、2030年にはどんな技術が実装され、社会がどう変わるかといった未来像を示したり、2040年・2050年といった長期のロードマップを作成したりすることもあります。もちろん、そこまで先になるとSF的な世界にもなり得るのですが、そうした長期視点の構想も重要です。
鬼頭:とてもイメージが湧きました。単純にストーリーとして未来像を語るのではSFになりかねないところを、さまざまなデータやアルゴリズムを用いて客観性を持たせたうえで、将来予測として示していくわけですね。
大澤:そうですね。もちろんSFが悪いというわけではないんです。「人間は空想できたものはかたちにできる」ともいわれ、SFから構想を得て開発に至るケースも実際にあるんです。弊社が得意としている「データドリブンなSFプロトタイピング」という手法があります。
「こんな未来があったらいいな」というイメージは誰しも持っていますが、それをそのまま語ると単なる空想や願望の域を出ません。 しかし、それに到達し得る根拠となる技術をデータベースから探し、エビデンスとして示すことで、未来像に説得力を持たせることができる。そうしたアプローチです。
鬼頭:なるほど。それはとても面白いですね。クライアントさんだけでは見えにくい視点を、アスタミューゼさんがデータと分析を通して見せてくれる、というイメージがよく分かりました。
鬼頭:そういった仕事内容を伺うと、やはり博士人材が重要な役割を担っているという印象があります。会社には博士の方がどれくらい在籍していて、どのような分野の方が活躍されているのでしょうか?
大澤:まず、テクノロジー・インテリジェンス本部でいうと、12人中博士人材は私を含めて9名です。さらに、アルゴリズムのほうにも博士が1名いますので、会社全体としては10名ほどになります。会社全体の規模が、今は40人強、42〜43人くらいなので一般的な企業と比べても多いかもしれませんね。あと、アナリストの部門が会社全体の中でも大きいというのもあります。
また、分野でいいますと、分子生物学とか、地球物理、材料、高分子化学、素粒子物理……あとバイオ系の方もいますし、音声処理の方も。ほんとに一人ひとり専門が違うんですよ。10人分言うことになっちゃうんですけど。
鬼頭:いろいろな分野の方が活躍されているんですね。
◎参考:大澤様の部署で活躍する10名の博士人材の学生時代の専門領域(キーワード)
・分子生物学、発生細胞化学、生体情報センシング、ナノフォトニクス、ナノバイオテクノロジー
・地球物理学、地球電磁気学、気候変動
・材料工学、無機化学、半導体工学、人工知能技術、脳神経科学、電気・電子回路、ナノマテリアル
・高分子化学、材料工学
・素粒子物理学、原子核物理学、相対性理論、量子物理学、統計物理学、計算物理、数学
・磁気記録、レーザー光学、バイオイメージング、光学装置プロトタイピング・製品設計
・環境微生物学、微生物生態学、分子生物学、環境DNA
・進化生態学、生態学、集団遺伝学、昆虫学、生物多様性、系統分類
・音声処理、福祉工学
・ヒューマンインタラクション、自動車
大澤:はい。ただ専門が活かせる場面はもちろんあるんですけれども、博士までに学んだことがそのまま案件に適用されるケースは実は少ないんです。
自分の専門を起点にしつつ、いろんな領域の勉強をする必要がありますし、実際、皆が日々知識の幅を広げています。弊社は年齢層も幅広いのですが、60代後半であっても「学び終えた」という空気は全くなくて、常に新しい情報を貪欲に収集しているという感じですね。
鬼頭:それはとてもいい環境ですね。
鬼頭:ここからは、大澤さんご自身について伺えればと思います。博士課程進学のきっかけやご専門について、改めて詳しく伺えますか?
大澤:私の場合は社会人経験を経てから博士に進みました。
自動車メーカーに勤めていたのですが、モビリティ領域の新しい概念や技術が出てきた時期に、「車づくり」だけでは捉えきれない広さがあると感じたんです。もっと幅広い視点で学び直す必要を感じ、博士課程進学を決めました。
鬼頭:どういったお仕事をされていたんでしょうか。
大澤:最初は商品企画です。マーケティング的に見えるかもしれませんが、多くの部署と連携しながら、車一台ごとの「誰のために、どんなコンセプトで作るか」を決める上流工程の仕事でした。開発、実験、デザイン、工場、営業など、多様な立場のメンバーと関わりながら車づくり全体を見渡す、とても幅の広い業務でしたね。
鬼頭:そこから博士課程に進まれたのですね。研究テーマについてもうかがえますか?
大澤:はい。「音刺激を用いた乗員の視線誘導に関する研究」です。「乗員」というのは自動車の運転手を想定しています。
自動運転になると、運転者の注意は散漫になりがちです。でも、自動運転ってあくまでシステムなので、100%安全ではない。状況によっては運転操作を人間に戻さないといけない場面もあり、前方へ注意を引き戻す工夫が欠かせません。そこで、どんな音なら素早く視線が戻るのか、視線の移動の速さや心理状態を表すと言われる瞳孔径を計測し、機械学習の手法によって解析する研究をしていました。
鬼頭:研究にも車に関わるテーマを選ばれたわけですね。その後、現職に至るまでにはどんな経緯があったのでしょうか?
大澤:博士課程を終えても「モビリティの領域に関わりたい」という気持ちはありましたが、また同じ業界に戻ると視点が固定されてしまう気がしました。もっと幅広く課題解決に関わりたいと思っていたところ、現在の会社から声をかけていただいたんです。
修士では画像処理を研究していたので工学的な知識も活かせそうでしたし、大規模データベースを活用できる点にも魅力を感じました。
鬼頭:では、アスタミューゼに入社した当時は、どういった仕事内容を経験されてきたのでしょうか?
大澤:入社時の肩書きはコンサルタントで、課題ヒアリングから提案まで一通り担当していました。仕事内容自体は今と大きくは変わりませんが、当時の社長が官公庁案件を積極的に任せてくださり、手法づくりから提案、デリバリーまで一貫して担当する機会が多くありました。当時はまだ官公庁のお客様が少なかったこともあり、そこを広げていく意図があったのだと思います。
また、当時は社内にアルゴリズム開発部門がなく、解析業務は外部委託でした。業務委託のエンジニアと協働しながら進める中で、入社2年目頃に「開発室を立ち上げたい」という話が出て、私の研究室の後輩を誘って参加してもらい、正式に部門ができました。機械学習の進化が著しい時期でもあり、自社の多様なデータを使いながら、さまざまなアルゴリズムや解析手法を開発していました。肩書きはコンサルタントのままですが、マネジメントも並行して担うようになり、その後、現在のテクノロジー・インテリジェンス本部も任されるようになりました。
鬼頭:なるほど。本当にいろいろな立場を経験されてきたんですね。では、これまで仕事をされる中で、「博士課程の経験がここで生きたな」と感じた場面はどんなところでしょうか?
大澤:直接役に立っているところでいうと、機械学習の知識がアルゴリズム開発にそのまま活きたり、自動車関連の案件で以前の経験を使えたり、というのはありますね。人脈が助けになったこともありました。ただ、それは博士だからというより、社会人として積んできた経験のほうが近い気がします。
博士課程で得た力で一番大きかったのは、やっぱり「課題を見つけて、原因を深掘りして、解決策を考えて、実行する」という一連のプロセスをやり切る力です。これは今の仕事の中でも本当によく活きていると感じます。
鬼頭:私もさまざまな博士人材にインタビューしてきましたが、やはり皆さんに共通して備わっている力があると感じています。
大澤:そうですね。もともとそういう素養がある人が博士課程に進むのかもしれませんが、博士って一筋縄ではいかないことが多いじゃないですか。実験や研究がうまくいかなくても粘ったり、へこたれないメンタルが求められたり。そういう力は、やっぱり経験しないと身につかないものだと思います。
鬼頭:なるほど。では逆に、博士課程を経たからこそ企業に入ったときに感じるギャップ、というのはありましたか?
大澤:それが、私はもともと企業で長く働いていたので、ほとんどないんです(笑)。なので「博士ならではのギャップ」と言われると、正直あまり思いつかなくて。
鬼頭:それでは、大澤さんがマネジメントされている中で、新卒で博士号を取得して入社した方などが「ここは少し苦戦してそうだな」と感じる部分などはどうでしょうか?
大澤:業務特性によるものでもありますが、まず複数の案件を同時並行で進めるマルチタスクは、最初は負荷が高いかもしれません。案件ごとにスピードも締め切りも違うので、慣れるまでは大変だと思います。
もうひとつ挙げるとすれば、アウトプットの出し方の違いですね。研究では、自分が納得できる形に仕上げてから、査読などに出すのが基本だと思います。でも企業では、完成前の段階でも途中経過をこまめに共有したり、着手前に方向性をすり合わせたりする必要があります。
「完璧な状態にしてから出したい」タイプの方には、ここが最初は少し苦労するポイントかもしれません。ただ、こちらからお伝えしていくうちに、みなさんすぐ順応されています。
鬼頭:なるほど。そのように苦労している方やギャップを感じている方に対して、大澤さまがアドバイスをする際や、あるいは周りの方とサポートしていく上で大切にしていることなどはありますか?
大澤:まず、1 on 1の時間を設けて、業務のことのみならず、プライベートも含め、本人が話したい様々な疑問や不安を共有してもらうようにしています。直接指摘してほしい、という方も中にはいらっしゃるのですが、私はなるべく、本人が自然に気づけるほうがいいと思っていて。一人一人の性格や希望に合わせ、言葉の選び方や伝え方を意識しています。
それから、弊社はもともと権威勾配をあまり感じない組織だと思っているんですが、それでも、いつも私からではなく、その人に距離の近いメンバーから伝えてもらうようにするなど、支え合うような動きはあります。
あとは、チームごとのプロジェクトの進め方についてです。「この分野はこの人たちが得意」という流れができてしまうことがあり、忙しくなるとアサインの入れ替えが難しくなって、他のプロジェクトのメンバーと話す機会が減ってしまうんですね。
そこで、あえて「雑談の時間」をつくって、日常業務と関係ない会話やちょっとした相談ができるようにしています。
鬼頭:なるほど。それはとても大事ですよね。特に、一人で研究をしてきた方々だと、視点の切り替えにも慣れていない場合がありますから。
大澤:そうなんです。そもそもチームプレーが初めて、という方も多いので。
鬼頭:働きやすい環境づくりをされているのが伝わってきます。先ほどは「課題を見つけ、突き詰める力」といった話もありましたよね。博士人材のメンバーを見ていて、「さすが博士だな」と感じる場面や、強みが現れると感じる瞬間はありますか?
大澤:しょっちゅう感じますよ。「やっぱり違うな」と思うことは多いです。期待値を超えてくることが多いんです。
具体的には、限られた時間で「ここまでは見きれないだろう」と私が思っていたような深い部分までしっかり調べて、それを分かりやすくまとめてくるケースですね。そういう成果を見ると、本当に感動しますし、本人にも伝えています。
鬼頭:なるほど。思考の深さが強みとして出ているということですね。
大澤:そうですね。それに、新卒で入った博士のメンバーは今30歳前後ですが、とにかく知識の吸収が早い。自分の専門分野と少し違う領域でも、あっという間に習得してしまうんです。クライアントの前でも、今年入社したばかりのメンバーが堂々と技術説明をしていますし、頼りにされる場面も多いです。
たとえば、私がバイオ系に非常に詳しいお客様との会議前に「細部への指摘があったらどうしよう」と思っていたんです。そしたら、新卒の若いメンバーが「自分のほうが詳しいので大丈夫ですよ」と言ってくれて。あの時は心強かったですね。最近で一番感動した出来事です。
鬼頭:それは頼もしいですね。そういう意味では、会社では上司がすべての領域を把握している、という状況とは違うわけですよね。博士人材が持つ、それぞれの分野の知識や専門性が直接役に立つ場面も多いわけですね。
大澤:そうです。弊社には、年齢が40歳近く離れているメンバーもいますが、「年上だから偉い」「立場が上だからすごい」というような雰囲気はありません。その領域に詳しい人を自然に尊重して、「これは誰々さんに聞くのが一番」といった形で任せる文化があります。
鬼頭:そういう相互のリスペクトは素晴らしいですし、さまざまな分野の博士の方がいるからこそ、それぞれ強みが活かされているということですね。博士人材を含め、専門性や経歴の異なるメンバーが一緒に働く機会が多いと思います。日頃、円滑に協働するために工夫されていることはありますか。
大澤:メンバーをその経歴によって特別に区別している感覚はありません。ただ、他部門と協働する際には、こちらでは当たり前のテクニカルタームや分析の前提が伝わりづらいことがあります。なので、できるだけ噛み砕いて説明するようにしています。
あとは、ドライになりすぎないように意識しています。博士人材は「理屈で動く」「データがすべて」というイメージを持たれがちですが、実際はそんなことはありません。単に理屈が通じる相手同士だと会話が成立しやすいだけなんですよね。知らず知らずに壁ができてしまわないよう、フランクに話す時間をつくるようにもしています。
鬼頭:博士人材の方がお客様と直接お話しする機会もあるのでしょうか?
大澤:はい、あります。むしろあえて前に出てもらっています。
鬼頭:クライアント対応で意識されていることはありますか?
大澤:博士人材は国際会議や学会での発表経験があるので、人前で話すことに慣れている方も多いです。ただ、緊張しやすいタイプもいるので、必要に応じて事前にアドバイスをしたり、予行演習の機会を設けたりしています。
また、社内で研究内容を発表してもらう、朝礼でプロジェクトの概要を説明してもらうなど、大勢の前で話す訓練になる場を意図的に作っています。
鬼頭:そうした準備の場があるのはとても良いですね。
部署のメンバーとディスカッションをしている様子
鬼頭:では、大澤さんがこれまで関わられた仕事のなかで、「これは大変だった」という案件はありますか?
大澤:そうですね……基本的に、最初から成功する道筋が見えていないプロジェクトは、大変なことが多いです。でも、そういう案件ほど、うまくいった時の達成感は大きいんですよね。
たとえば、新しいアルゴリズムを開発してデータを解析するプロジェクトがありました。「こういう結果が出せるはず」とこちらからお客様に提案し、受け入れていただいた案件でした。
ところが、実際に試してみると想定とは異なる結果になってしまって。納期も迫っていたので、アルゴリズムエンジニアにも相談し、テクノロジーアナリストにも入ってもらって、どうすれば形にできるかをみんなで必死に議論しました。最終的に何とか間に合わせた時は、本当にホッとしましたね。
鬼頭:まさにチーム総動員の瞬間ですね。普段から、部署を越えて巻き込んでいく意識があるのでしょうか?
大澤:はい。そこは常に意識しています。チームはとても大事ですし、日頃からいろんな部署の人と自然に関わっておくようにしています。だからこそ、こういう緊急時にもすぐに力を借りやすいんです。
弊社は小さい会社ですので、席を立てばほぼ社内全体が見渡せる規模なゆえに、人と人のつながりが密なんですよね。「すぐ相談できる」というのは、とても大きな強みだと思います。
鬼頭:確かに、魅力的ですね。では、今後採用される博士人材について伺いたいのですが、どのような活躍を期待しているのでしょうか?
大澤:もちろん、博士人材が持つそれぞれの専門性の強みは期待しています。ただ、専門領域だけを生かしたいというタイプの方だと、弊社とは少し合わないかもしれません。
弊社には、製造業だけでなく、官公庁やさまざまな業界のお客様がいらっしゃいます。ですから、入社後も自分で勉強を続ける必要がありますし、多様な技術領域や業界に触れたいという気持ちを持った人こそ活躍できると思います。
博士課程は通常、狭く深く専門を掘り下げますよね。それはもちろん素晴らしいことですし、イノベーションの源泉にもなります。ただ、弊社の場合は、その「深く掘れる力」を横方向にも広げてほしいと思っています。深さを保ったまま、幅を広げるイメージです。頭の切り替えも必要でチャレンジングではありますが、これができると本当に強いです。
実際、弊社を受けてくださる方々は、「いろんな領域を見たい」というタイプの人が多いんですよね。あえて小規模なベンチャーに飛び込んでくるというのは、やはり何かを求めて来ているんだと思います。
鬼頭:実際に採用されている方々のお話を聞いていても、「良い人材を採用している」という印象があります。
大澤:アカリクさん経由で入社している新卒もいますし、確かに良い方が多いですね(笑)。ただもちろん、博士人材でも、会社によっては活躍しにくい場合もあると思います。だからこそ、弊社では採用時点で、その人が活躍できるかどうかをしっかり見極めています。
博士までの研究内容がそのまま適用できるケースは少ないという点は、事前にご了承いただいていますし、入社後も勉強を続けなければならないことも、正直にお伝えしています。そこで難しいと感じる方は、その時点で辞退されることもありますね。
鬼頭:博士人材の方が入社後に「勉強する」といったとき、具体的にはどんな内容を指しているのでしょうか?
大澤:たとえば、食品領域が専門の方が自動車メーカーの案件に入る場合、自動車は専門外ですよね。でも、自動車メーカーの社員と同じレベルの知識を身につける必要はありません。必要なのは、その領域で今何が起きているのか。たとえば自動化のトレンドや、どのような電池が使われているのかといった情報です。こうした内容は、ウェブ検索や書籍、論文、シンポジウムなどを通して十分にキャッチアップできます。
鬼頭:先ほどおっしゃっていた「横に広げる」という話につながりますね。
大澤:そうなんです。博士の方は勉強の仕方に慣れているので、習得がとても早いんです。それは大きな強みだと思いますね。
鬼頭: 企業で活躍する博士人材を増やしていくためには、どんな工夫やマインドが必要だと思いますか?
大澤:少なくとも弊社では、それぞれの背景をきちんとリスペクトする、という姿勢を大事にしています。
「専門を深く掘りたい」というタイプの方もいますし、逆に幅広く動く方が向いている人もいる。企業では完全に専門だけに閉じた働き方は難しい場面もあるので、アサインする案件や同時に持つ案件数を調整するなど、その人が働きやすい形になるよう工夫しています。
結局、一律の働き方を押しつけるのではなく、特性に合わせて柔軟に任せていくことが、博士人材の定着にもつながると思うんです。
研究室の風土も、それぞれ全然違いますよね。厳密に管理される環境もあれば、自由なスタイルの研究室もある。その違いが性格や働き方にも表れるので、会社側も歩み寄る姿勢が必要だと思っています。
鬼頭:今、博士課程にいる方や、進学を考えている学部生・修士の方に向けて、「学生のうちにやっておくといいこと」があれば教えてください。
大澤:私自身は学生時代かなりはっちゃけていたタイプなので偉そうには言えないんですが(笑)。でも、社会人になると時間の制約が出てきますよね。学生は体力も時間もある時期なので、法に触れない範囲で思い切っていろんなことに挑戦しておくといいと思います。
鬼頭: 大澤さま自身、「無茶だったけれど結果的に良かった経験」はありますか?
大澤: 無茶ばっかりでしたね。バイクで夜を徹して山や海に行ったり、テレビ局でアルバイトして面白い人に出会ったり。そういう「しょうもないこと」の積み重ねなんですけど、結果的には自分の視野を広げてくれました。
それから修士論文の研究がちょっと面白くて。似顔絵の自動生成アルゴリズムに取り組んだんですけど、教授陣の写真を使って似顔絵をつくり、学生に「似ているか」をアンケートしたりもしていました。今では絶対できないですけど。怖いもの知らずというか。教授に「写真撮らせてください」って言えば「いいよいいよ」と快く応じてくださって、とても良い環境でした。
鬼頭:学生だからできる経験ですね。せっかくなので、最近ハマっていることや趣味についても伺えますか?
大澤: もともと乗り物が好きで、車やバイクですね。学生時代は卒論で忙しいのに「中免取りに行きます!」と抜け出したこともあって、教授には絶対呆れられていたと思います。
それから、フクロモモンガを飼っていて、そこからブリーダーの方々と仲良くなったり、普段の仕事では出会わない世界が広がったり、とても面白いんです。
鬼頭:多様な経験が新しい視点にもつながりそうですね。
大澤:本当にそう思います。どこにヒントがあるかわからないですし、仕事以外の場所から受ける刺激って大事だと思います。
鬼頭:今日は様々なお話を伺うことができました。ありがとうございました。
アスタミューゼ株式会社の採用情報、インターンシップ/オープンカンパニーの情報については以下よりご確認ください。
◆ インタビューのお相手:大澤 理恵 氏(アスタミューゼ株式会社 テクノロジー・インテリジェンス本部 本部長/データ・アルゴリズム開発本部 本部長)
◆ 撮影場所:WeWork KANDA SQUARE
◆ 企業情報
社名:アスタミューゼ株式会社
代表者:代表取締役社長 永井 歩
本社所在地:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目2番地1 KANDA SQUARE 11F We Work
創立:2005年9月2日
X(旧Twitter):astamuse_saiyo
こちらの記事は2025年12月10日に公開しており、記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
Photo: 金沢 俊
Writer: 小川 絵美子